厠から戻ると部屋の前に見知らぬ若者が座っていた。 「武市さん、いいですか?」 座って障子越しに声をかける。 その声に聞き覚えがあった。 「誰ですか?」 「ひゃあ?!」 後ろから声をかけると、彼女は弾かれたようにこちらをみた。 「・・・八重さん?」 「あ・・武市さん、びっくりしました」 「驚いたのは、こちらです。なんですかその姿は」 髪を高く結い、袴姿。 着物の色柄が違うが、まるで中岡がもう一人いるように見える。 「キミはなんて格好をしてるのですか?」 「え、袴姿ですが似合いませんか?」 論点のずれた返答。 まあ、通じてないと思っていましたが・・・。 「その姿で何をするのですか?」 「えっと、お出かけしませんか?」 「はい?」 「この姿なら武市さんと横並びで歩くこともできるし!」 何故か得意満面に答える。 軽く頭痛を覚えた。 「八重さん・・・」 「あれ、似合ってませんか?」 見当はずれなことを言い出した。 「・・・似合ってます、でも問題はそうではなくて、何故そのような姿をしているのですか?」 「武市さんと一緒に歩きたいからです、男女だと並んで歩けないですよね?だから・・・」 袴姿になってみた、という。 横並びで歩くことに何の意味があるのか、僕には理解できないが・・・。 「・・・そうですか、ちょうど出掛ける用事があったので、一緒に行きますか?」 「はい!」 満面の笑み。 彼女がそれで喜ぶのであれば、それもまたいいかと。 そして袴姿をしているというのに、可愛らしく見えてしまう。 「武市さん!」 先に表に出た彼女に呼ばれる。 その声がとても心地がいい。 それほどまでに僕は彼女に溺れてる。 ☆comment?☆ |